2013年6月28日金曜日

第3回発表を終えて

本日は4人でした。どれも内容の濃い興味深い話でした。私の感想を述べておきます。

8 Fさんの実体験にもとづく第2言語習得法

Fさんは、高校時代のブラジル留学体験の話を中心に話してくれました。ポルトガル語を学ぶということにしっかりとした目標をもって、それをきちんと実践したという経験は、おそらく揺るがない信念となっています。おそらくそれは間違いないことだと思います。やはり留学して、現地でことばを使いながら学ぶということが最も効果的なのだということを裏付けています。

しかし、Fさんも言っていたように、留学だけでことばは学べるわけではなく、それには様々に工夫しなければいけません。ここが大切だと思いました。Fさんのポリシーは、とにかく「実際に使う」ということです。実際に使うために、とにかく現地の社会に入り込み、徹底的にコミュニケーションを取ることです。これは単純ですが、なかなかできることではありません。

また、教育実習で生徒にアンケートをしたら、留学したい生徒がたくさんいたというデータはとても貴重でした。Fさんが体験を話したあとかもしれませんが、日本の若い人は内向きだとよく言われますが、本当はそうではないということを示唆しています。なぜ日本の若い人が外国に行って勉強しないのかには、おそらく多くの理由があります。個人的には、教育や社会システムに不備があると思います。その一つには英語教育も関わっています。英語を教える教師自身に留学などの機会が与えられていません。

言語教師認知的に言うと、日本の英語教師の考えの中に留学に対する思い込みがあります。何か特別なことのように考える傾向があります。留学体験をした生徒が日本の英語授業の教室に戻ると、とたんに口を閉ざしてしまう例も多々あります。英語を実際に使うことを目標に授業が行われていないことが一因です。

教師を非難しても始まりません。英語教育に対する要求が特異なものになってしまっているからです。教師自身もそれほど豊富な海外体験をしているわけではありません。また、留学したとしても一過性の経験です。継続的にはなっていないことが多いのです。

Fさんが述べるように、もっともっと多くの人が気安く留学できるしくみがほしいです。まず、費用面での支援が必要です。次に、留学することが就職などに悪影響を与えないことです。さらには、持続的に日本と海外で学習したり、働いたりできるようになる社会的システムが必要でしょう。

このようなことを、もっともっと外国語教師が交流することで、状況を理解し、改善するために研究する必要があるでしょう。Fさんのような人がもっと活躍できる社会にすることが重要だと思いました。

9  Tさんのポルトガル語教師のインタビュー

Tさんは、日本でポルトガル語を教えながら、ブラジル文学や日本文学を研究している大学の教師に言語教師認知的な観点からインタビューを試みた。私は、Tさんのこのアプローチは言語教師認知の研究の神髄だと思っています。Tさんは気づいているかどうかは知りませんが、なぜこのポルトガル語の先生にインタビューしようと思ったのかです。つまり、Tさんも述べていたとおり、Tさんのインタビューを通して、ポルトガル語の先生が自分を振り返る(reflection)できたと言ったそうです。おそらくTさんも振り返りができたはずです。このような相互作用が私は大切だと思って、言語教師認知研究に興味を持ちました。Tさんは、おそらく、私と同じような意識を持ったのだと思います。

インタビューと観察は、言語教師認知の研究方法の大きな部分を占めます。この場合、観察は直接授業を受けてきたということですから、相当の観察をしてきました。しかし、インタビューで、その裏にある教師の信条あるいは信念(beliefs)を少し明らかにした点が、この調査の意義となります。Tさん自身が大きな影響を受けた先生の考え方を理解することは、Tさん自身の教師としての立ち位置を確固としたものにするでしょう。それは、このポルトガル語の先生をまねる訳ではなく、自分の教師認知を形成することにつながります。

ポルトガル語を教えるということと、中学や高校で英語を教えることは、方法論の上ではかなり異なります。しかしコアにある「学生や生徒の能力を信じる」という姿勢は共通しているのではないかと思います。

TさんはTさんにとってとてもいい先生と出会ったと思います。その出会いをよりどころにして、Tさんも同様に自分が教える生徒に接してもらいたいと思います。その際に気をつけることは、TさんはTさんであるというしっかりとした教師認知を持ってほしいことです。しかし、教師認知はやわらかくある必要があります。あまりかたくなである必要はありません。Tさん自身いろいろと迷うこともあったようですが、それはきっとプラスになるでしょう。教師はいい仕事です。

10  Oさんの教育実習体験

Oさんもポルトガル語を勉強してきて、英語の教師になることを考えているそうです。教育実習を終えた体験を率直に話してくれました。Oさんは某伝統ある私立の中学生を教えてきました。生々しい話もありましたが、このような事実を率直に話してくれることはとてもありがたいことですし、また、それを聞けることがこの教師認知の研究にはとても大事だと思っています。

Oさんが話したいことはたくさんあったと思います。おそらくここでは言えないこともあるはずです。教育実習の意義は、その経験を率直に振り返えることができるかどうか、あるいは、したかどうかで、その後の教師としての姿勢が決まります。物事は深く考える必要があります。なぜこの学校ではこのような教え方をしているのか、なぜ生徒はこのような学校生活を送っているのか、などを考えると、起因となる要素がいくつか見えてきます。塾にほとんどの生徒が行っているという事実があるとすると、授業はどこに焦点を当てるのか?あるいは、テストは教科書をおぼえればOKという勉強方法で本当によいのかどうか?教師は生徒に何を期待し、生徒は教師に何を期待するのか?

私は聞きながら、Oさんはどのように英語を教えたのかと興味を持ちました。生徒はたぶんほとんど問題のない生徒で、予習をしてくるだろうし、授業の反応もよいでしょう。中学校2年生を教えたそうです。中学校2年生というのはけっこうむずかしい年頃です。話の中で、教育実習ではよい経験をし、ある程度教えることにも自信ができたように見えました。

Oさんの話はけっこう多岐にわたっていたようですので、様々に調査したことをレポートでまとめてくれるとありがたいです。教育実習を振り返って考えることは大切です。それあるポイントに焦点をしぼって見つめ直すと今後教師としての柱を立てることができるでしょう。

11 Sくんの生徒の学習動機付け(motivation)についてー教育実習経験から

今回の言語教師認知論は、教育実習を受ける学生が多く、「教育実習で何が変わったか?」などをテーマに一度討論してみればよかったかと反省しています。実にそれぞれの方が異なる経験をしてきます。おもしろいと言えばおもしろいのですが、教育実習とは一体何だろうとあらためて考えさせられます。Sくんは、教育実習中に生徒の動機付けについて調査してくれました。高校1年生を対象として6月の調査ですから興味深いデータとなったのではないでしょうか?

それとともに、教師の考えも調査しています。これを比較するとおもしろいですね。母校ということもあり、母校をまた違った目で見られたことと調査の視点として独特の結果をもたらすのではないかと思います。学校というのはそれぞれ学校文化があります。いわゆる伝統ということですが、それを破ることは危険でもありますが、ある面必要な面があります。いくらカリキュラムが変わっても教える本質は変わりにくい。教師は変わっても、学校という場のエネルギーが強い場合が多々あります。

教師認知を研究する場合、この場(文脈)が重要だと考えています。「教師が変われば学校が変わる」ということが言われますが、それだけでもなさそうです。教師の意識が学校と生徒という環境とともに変わる要因はけっこう複雑です。中学校の場合だとたった一人の生徒が学校を荒れた学校にするということが起こりえます。しかし、それが起こるのは、その生徒がきっかけとなるだけで、元々その要因はいくつかあったことが考えられます。

アンケート調査で「学習のしかたが分からない」という生徒が多かったというのは、たぶん教師は気づいていると思います。問題は、その原因はどこにあるかでしょう。中学や高校や大学でも入学したときにいろいろと悩みます。そのような学習に対するてだては教師が授業をする上では最も大切と言ってもよいでしょう。教師はとかく授業の教え方にこだわります。しかし、生徒が教師を信頼する場合は、単に教え方だけではありません。実は日頃の学び方に対するケアをきちんとしている教師はだいたい生徒から信頼される傾向にあります。問題は、教師が忙しかったりして、それを怠ることです。

 Sくんの教育実習はたいへん充実していたようです。ぜひ教師になって教壇に立ってください。学習の動機付けは大切ですが、現在の高校生の多くの大きな動機付けは受験だったりします。英語を教えるという目標は、私はやはり英語を使えるようになってほしいということだと思います。そのために教師は何をする必要があるのかを考えてほしいと思います。生徒が「学習のしかたが分からない」という実態の裏にある大きな問題を考えてほしいと思います。

以上、いつものとおり。誤字脱字その他ご容赦ください。明らかな間違いは指摘してください。

本日もおもしろかったです。ありがとう。




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