2013年6月17日月曜日

第1回発表を終えて

今回は、スピーカーは二人でしたので、余裕を持ってお二人の方が話題にしたことを、みなさんで深めることができました。来週からはそうはいきませんが、できるかぎりみなさんにとって学びの場になるようにしたいと思います。

言語教師認知の研究の目的には、自己の探求があります。みなさんが関心を持つ言語教育の話題と経験はすべてその目的にかないます。お二人の発表の感想をまとめておきます。

1 Yさんのカナダ留学経験ー「言語教育の方法にみる言語認識の差異についてー第2外国語教育」

Yさんの調査は、カナダと日本の外国語教育について比較し、言語の学び方や教え方についての違いを分析しようとしているようです。本日は、そのカナダでの経験をもとにカナダの外国語教育とESLの実際について語ってくれました。やはり実体験に根ざすものはたいへん興味深く、資料などは貴重だと思います。一般化することはむずかしいですが、一般化する必要のない認知を提供しています。

Yさんは、高校時代にカナダのSaskatchewan州に留学したときの経験をもとに、言語教育や言語学習について話してくれました。Yさんは、カナダと日本の言語教育を比較してみたいということです。おもしろい視点です。比較研究はきちんと行うと相当にむずかしい研究となり、エスノグラフィー的に両方の地域の様々な情報を集める必要があります。それは無理ですので、私は、Yさんを通して見た違いの特徴のいくつかを分析することで、おもしろい調査になると考えます。

カナダも大きな国ですから、Saskatchewan州のカソリックの学校のカリキュラムはたぶん一端に過ぎません。カナダ全体を述べることはできません。また、同様に日本もそうです。しかし、Yさんが今回の調査で行う視点は、まず、YさんのSaskatchewan州での学びの体験です。授業で話してくれたことはたいへん興味深かったですね。私はカナダのことはあまり知らないので、話を聞いて興味を持ちました。実際機会があれば行ってみたいと思います。なぜなら、カナダの教育は質がよいと聞いているからです。私が興味を持って調査しているフィンランドは、カナダとの関係が強いようです。共通の興味関心があるし、教育にある面で力を入れているからでしょう。

それに較べると、日本の教育システムは硬直していて、うまく機能していないように思います。しかし、それでも日本はいまだに高い教育水準を維持しています。日本にはある面では世界に誇れる教育伝統がありますが、言語教育についてはどうでしょうか?Yさんの話を聞きながらそんなことを考えました。

言語認識の差異は大きなテーマです。私は単にYさんが感じた言語認識の差異に興味を持ちます。Yさん自身の言語認識はカナダでの経験に根ざすのかそれとも元々備わっていたのかというような観点で分析してはどうかと思いました。それを日本で現在勉強している人の認識と較べてみてはどうでしょうか?

Yさんは、教員にはならないそうですが、教育についてとても真摯ですばらしい理念を持っているように思います。ぜひ教育についてかかわり、活躍してもらいたいと思いました。

2 Nさんの「英語学習における教師と生徒のモチベーションの差異について」

何が英語学習の動機となるのかという課題はたいへん重要です。現在の英語教育でも最もみなさんが関心を持っていることではないでしょうか。言語教師認知の研究も動機付け(motivation)との関連は重要だと考えています。特にNさんがテーマとした教師と生徒の相互作用は重要なテーマです。教師の思いと生徒の思いはたぶん相当に違っていると考えられるからです。教師の意図することが生徒にそのまま伝わると良い結果をもたらすと考えがちですが、実際の授業や学習ではどのようなことが起こっているかは意外に分かっていません。

教師としては、生徒の学習に対する動機付けがうまくできれば、教師としての仕事の大方は達成したと言えます。「なぜ英語を勉強するのか?」という疑問を持つ、あるいは、意欲がない場合、ほぼ学習を成立させる要件がないので、教師が授業をする場合はたいへんです。しかし、何が動機付けとなるのかはケースバイケースでしょう。動機付けの多くの研究がなされています。拙書『言語教師認知の研究』でもその点には触れています。学習が成立する要件は、学習者から見れば、目標、動機付け、自律学習、学習環境、教材、支援、教師など、複雑な要素があります。教師から見れば、授業の目標、カリキュラム、指導法、指導技術、指導知識、授業活動運営、評価などが必要な要素です。

教師の動機付けに対する考えと、生徒の動機付けに対する考え方は、それぞれの立場が違うためにぴったりと一致しないでしょうが、それを整理して分析することはおもしろいと思います。その際、かなり広範囲になるので、ある程度視点を絞る事が大切でしょう。

私個人としては、Nさんの発表の中で、Nさん自身の英語学習に対する履歴と動機付けはたいへん興味深かったです。高校までの英語学習に対する母親のサポートと、それに応えるNさんの関係性は、やはり母親に対する信頼関係がベースにあるのだろうと思いますが、Nさん自身に明確な目標がたぶん早いうちからあったのだと思います。実際はNさん自身にしか分かりません。様々な要因が複雑に作用して英語学習に対する動機付けがなされたのでしょう。そのヒストリーに興味があります。

小学生や中学生が英語学習を進める場合、教師の存在は大きいと思います。Nさんはこれから教育実習に行くそうですから、このテーマにそって教育実習を考えてみるのもよいと思います。忙しいかもしれませんが、教育実習は貴重な経験なのでぜひ有効に過ごしてください。

さて、本日は時間に余裕があり、たくさん議論ができました。次回からはそうはいきませんが、みなさんの発表を期待しています。どうか真摯に取り組んでください。




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