2015年7月1日水曜日

第3回発表会

発表会は一人30分程度の時間ですが、30分では語り尽くせないくらいの内容がいつもあります。それぞれの一人ひとりの体験を通して見たことは他にはない事実だからでしょう。科学的と言われる事実は、検証可能で客観的と言われるものである必要がありますが、自分や教師や自分と教師の「こころ」のやりとりは他人にも自分にも「見えない」のです。話を聞いていると、少しそれが見えるときがあります。それが面白いのです。

6  Hさんの教育実習を終えて

Hさんは、母校で教育実習をしました。忙しかったけれども充実した3週間だったようです。ハンドアウトのさいごに、It is one thing to know, and another to teach.と書いてありました。これはだれもが感じることです。しかし、これは共通しているようでかなり個人的な体験で実は人によってかなり違います。

Hさんは、Hさんに影響を与えた先生がまだ同じ学校で教えているということがとてもよかったと思います。その先生と自分を重ねて考えることができたからです。「教師は生徒のロールモデルとなる」を教育実習で心がけたというのは、けっこうたいへんですが、生徒にとってはたいへんありがたいことです。身近な先輩、あるいは、年齢の近い教師は、親や教師がどんなに多くの経験や知見を持っていたとしても、同じことを言ったとしても、その受け止め方はかなり違います。

教師はロールモデルとしての役割は当然あります。特に英語学習であれば、そうでしょう。教師が英語をどう使い、どう学習し、また、研究しているかは、教師という職業の特徴です。私も教師をすることの魅力は、自分が学びを楽しむを実践できることだと思っています。Hさんの恩師が実践していることは、たぶん、私と同じでしょう。

逆に、Hさんも言っていたように、「反面教師」ともなります。教師の中で意図してやっている人はおそらくいないでしょうが、相性というか、誤解というか、考え方の違いなどで、そういうことが頻繁にあります。これは避けられないことですが、Hさんのように、それをバネにして成長する場合もあります。

Hさんは、教育実習を楽しんだようです。もちろんたいへんだったと思いますが、「教える」ということの面白さも分かったのではないかと思います。また、教師という職業を選択肢に入れてほしいと思いました。また、恩師の先生との関係性や恩師の先生の実践にも興味を持ちました。あちらこちらにいい先生がたくさんいます。私はそういう先生の実践に興味があり、可能なかぎり会って話してということをしてきましたが、時間にも限界があります。このようにHさんを通して、また一人すてきな先生がいるということを知りました。ありがたいですね。

7   Yさんのスウェーデンの英語教師

スウェーデンの外国語教育と日本の外国語教育は、歴史的にも地理的にもかなり異なりますが、日本にとっては、福祉を中心として昔から注目してきた国です。私も何度か訪れて、学校を見たりして思うことは、教師の自由度が高いという印象です。また、Yさんも説明していたとおり、人種なども多様で、言語も文化も異なる子どもがたくさんいます。ある面でむずかしいですが、個人を尊重し、勉強する子はきちんとするし、しない子はそれぞれの道を進むということのようです。

Yさんが紹介した教師は、Yさんが高校生のときに留学で出合った人です。スウェーデンの教員養成の詳細は知りませんが、それほど綿密なプログラムではないような印象を持っています。ようやく整備し出したという感じでしょうか?ただ、ヨーロッパ全体がそうであるように、実習期間をかなりとっています。また、英語であれば、英語力というものを当然重視します。留学などは当たり前であり、英語教師というよりも、外国語(言語)教師というほうがよいかもしれません。私の興味であるCLILは自然なかたちで実践されています。バイリンガルプログラムを多く、英語については第2言語と言ってもいのでしょう。

さて、Yさんの話のスウェーデンのH先生ですが、いい先生だと思います。熱心で自分を高めようとします。この点はたぶんどこの国でも共通して言える「よい教師」です。私が話を聞いていて面白いなと思ったのは、教師の「多忙感」です。世界中の教師の多くは忙しいと感じています。理由は、かなりの仕事を家に持ち帰るからです。授業をすると分かると思いますが、宿題を点検したり、採点したり、授業案を考えたり、個々の生徒の相談に乗ったりと、個人の裁量にまかせえられることが多々あります。

スウェーデンは、日本と比べるとはるかに男女の格差がなく、個人が尊重される国です。それでも、教育は女性が担う部分が多いように思います。教育で活躍している人がたくさんいます。私の知っているほとんどの英語の先生が女性です。それはさておき、日本はどうでしょうか?女性が多くなっていますが、中高では男性が多いですね。私の妻も英語教師でしたが、だいぶ以前に辞めました。多忙だからです。

日本は圧倒的に多忙です。真面目であればあるほど、家庭や生活を犠牲にしなくてはいけません。さらに、最近では、夏休み、冬休みもなく働いています。教師の仕事のメリットは、夏休みなどの生徒の休暇中に研修が自由にできて充電できることです(日本ではでした)。もちろん、さぼってばかりいる教師もいるでしょう。日本は、さぼっていい加減な人がいたことも事実で、批判もされました。それが今日のような管理社会になったと言えるでしょう。

Yさんの話を聞いて、教師はプロフェッショナルであるべきだと改めて強く思います。また、英語ならば英語の教師として仕事をすべきと思います。しかし、そうならない複雑な学校文化がすでにできていて、それはそう簡単には変わらないのです。Yさんは、日本の教師のデータをこれから集めるそうです。Yさんなりに分析してみてください。

8  Aさんの生徒に求められる良い英語教師とは?

Aさんは、良い英語教師とはどういう教師か?というテーマで課題に取り組んでいます。面白い点は、母校の学校の先生にアンケートを実施したことです。客観的には意味のない調査かもしれませんが、Aさんと母校の先生の関係性がとてもよく表われたデータで、私はとても面白いと思いました。母校の文化がよく出ているからです。

私が研究している言語教師認知という研究は、「言語教師が何を考え、何を知っていて、どのような信念を持っていて、どう教えて、どうそれを振り返っているのか?」ということを基盤にしています。多くの研究は、教師がどう成長し、どう変化していくのか、何が教師の教え方に影響を与えているのか?というようなことです。アンケート、インタビュー、日誌、語り、観察、などを分析して、たとえば、「文法を教えることについてどう考えているのか?」「コミュニケーション重視の指導についてどう認識し、どう教えているか?」などを探求しています。

しかし、このような調査は一般化することはむずかしく、一般化することにもあまり意味がない可能性があります。教師の内面の研究は、状況を考慮した観点で見るほうが、調査する側にも調査される側にも、納得できることが多いのではないかと考えます。その点から、Aさんの調査はとても面白いと思いました。これだけしっかりと答えてくれたのは、Aさんが調査したからです。ある特定の学校と、ある特定の調査者と、ある特定の教師集団の英語教育に対する考え方です。ここでは、調査者の実体験と視点を生かすことが大切です。その調査者の視点で、このアンケートを見て、考え、分析します。それはたぶん興味深い結果が出ると思います。

できれば、アンケート回答者の授業の実際を添えると調査に幅ができます。「なぜ英語教師を目指したか」はおもしろい質問です。それについての回答も詳しく聞けると、その先生の指導観、つまり、言語教師としての基本的な立場が理解できると思います。

良い英語教師というのは、ある一般化されたモデルはあるかもしれませんが、それがその状況に応じてどう当てはまるかは、かなり複雑でしょう。あまり単純化しないほうがよいレポートとなるのではないでしょうか?考えてみてください。

毎回、話を聞くたびに、興味深いですね。みなさん、ありがとう。次回も期待しましょう。






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