2015年7月12日日曜日

第5回発表

発表はこれがさいごです。母校に関連する話題が多く、今年の発表は、ある意味で、発表してくれた人と母校の教師との関係性がいくつか見れてとても面白かったですね。ありがとう。

11 Mさんの「母校の教師について:

Mさんは高校のときにとてもよい教育を受けたと思います。もちろん、たいへんなときもあったでしょうが、総じて自分が辿ってきた道は正解ではないでしょうか?母校はユニークな学校で、ある意味で徹底的な一つの目標志向に向かって、親身な指導をし、実績も上げている学校です。それはもちろん生徒の目標が明確だからできることです。生徒の目標が明確であれば、教師の仕事も明確です。生徒の目標を実現することです。しかし、それはかなりたいへんなことです。さぼっていい加減にはできません。教師自身も研究しなければいけません。それが、受験であっても、留学であっても、それを支援することが教師の使命でしょう。

Mさんがインタビューした二人の先生は、やはりいい先生です。やりがいもあるのではないでしょうか?もともと英語の教師になることを決めていたわけではなく、流れの中で英語教師という仕事に就いたそうです。当時からするとそういうことは多くあったように思います。まずは、教師という職業があって、その後に教科を選ぶ。教科を選んだ理由も英語ができたり、なりやすいというような理由が往々にしてありました。その意味から、二人の先生は柔軟な考え方のできる人で、学校の方針にもうまく対応でき、その期待にも応えられたのではないでしょうか。

発表では、Mさんと二人の先生と学校との関係性に興味を持ちました。Mさんはたぶん英語は好きで、英語を通してなんらかの形で仕事をしたいと考えているのでしょう。教師もその一つだし、英語を使って活動し、何かしたいと思っていると思います。そのようなMさんをずっと支えてきたのは母校の先生や仲間でしょう。二人の先生の話をしているMさんは、たぶん、先生の話をしながらも、自分の高校時代を考えていた(振り返った)と思います。

Mさんの話を聞きながら、母校の先生と対話したり、教師を研究することの意味を考えました。Mさんも言っていましたが、「先生の知らない部分を見ることができた」というのは確かにそうです。先生もMさんと教師としての自分の仕事を話すとは考えてもみなかったでしょう。しかし、私はそれよりも、Mさんが、高校時代の先生と話すことによって、Mさん自身を再度振り返ることができたのではないかと思います。

教師の考えていることを調査する(教師認知研究)ことは、インタビューだけではあまり見えませんが、実は、このような調査をすることは、調査者自身の探求も含んでいるのです。調べようとする人の意図と対象となる人の相互のやりとりの中で、何か発見があると考えています。きちんとした研究では、厳密さが要求されますが、この授業では、母校の先生についてまとめながら、教育を考える自分を見つめる機会にしてほしいと思います。

いつものとおりですが、ここに書いてあるのは、私のメモです。思い違いや誤字脱字など多々ありますが、ご容赦ください。いずれの話もたいへん興味深く聞きました。ありがとう。


2015年7月8日水曜日

第4回発表会

それぞれの人が、それぞれの立場や観点で、それぞれのテーマで英語教師について話すのはたいへんおもしろいと思っています。前回終了後、北海道に行ったりしたので、感想が遅れてすみません。

9 Hさんの「新課程の英語科が教育実習先でどのように教えられていたか」

Hさんも母校に帰っての教育実習でした。教育実習というのもそれぞれの体験はだいぶ違うようです。Hさんのテーマは、新課程になって何が変わっているか?ということでした。しかし、母校は以前からかなり熱心に英語教育に取り組んでいる学校で、指導のしかたも安定しているようだ。多くの高校は、進学実績という目標をかかえている。教師はそれを達成しなければいけない状況です。しかし、その中でそれぞれの教師が工夫して英語のコミュニケーション能力の育成に努力している。それぞれの教師のアプローチは違うので、3週間ではなかなかどう実践しているかは見えにくいかもしれない。

それでも、Hさんは、多くの授業を見て、自分でも指導教官の先生の実践を踏襲して、教えることを考え、実践した。Hさんの言葉で印象に残っているのは、「実際に生徒を目の前にして見ないと、教えるということが考えられなかった」ということです。つまり、実際に目の前にしてどうしたらよいかを考え実践したということです。この言葉はよくわかります。教育というのはそういうものかと思います。あれこれと頭の中で考えても結局そのとおりにはいきません。また、計画しても思ったとおりに進むことはありません。模擬授業と実際の生徒を教えることは大きく違います。「教える」ことは技術だけではどうにもなりません。

新課程になり、「英語の授業は英語で教える」が注目されました。しかし、現状はおそらく何も変わっていないでしょう。明治以来日本はそのようなことの繰り返しです。国が学習指導要領を提示し、教科書会社がそれに沿った教科書を作り、現場はそれを形だけにこだわり、少し変えるのです。しかし、Hidden Curriculumと言われるように、受験や教員養成システムや伝統的な学校教育文化により、特に何も変わることなく、進むのです。それでも、社会経済活動は厳しくなるので、若い人はそれなりの知識や技能を身につけていきます。その息苦しさについていけない人も多くなってきています。教育はそのような多様な問題を抱えているのが現状でしょう。

Hさんの視点は面白いと思いました。Hさん個人で再度教育実習で見たそれぞれの教師や授業を見て、改めて母校や新課程を考えてみてはどうでしょうか?

10 AさんのALTについて

Aさんは、ALTに興味を持ったようです。本来、ALTは、JETプログラムで来日した英語圏の人の英語指導助手を表す言葉でしたが、現在は、小中高で英語教師を支援する人を総称して言うようになりました。すっかり定着して、多くの学校で英語教師とともに英語を教えています。ALTに関しては次のようなウェブがあります。

JETプログラム

The Association for Japan Exchange and Teaching (AJET) 

JETプログラム参加者の会「AJET

その他にも多くのJETプログラムに参加した人の集まりがあちらこちらにあります。良きにつけ悪しきにつけ、日本の英語教育に大きな影響を与えています。

JETプログラムは次のように説明されています。つまり目的は国際交流なのです。
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JETプログラムは、「語学指導等を行う外国青年招致事業」(The Japan Exchange and Teaching Programme)の略称で、地方自治体が総務省、外務省、文部科学省及び一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)の協力の下に実施しています。

このプログラムは、外国語教育の充実と地域レベルの国際交流の進展を図ることを通し、日本と諸外国との相互理解の増進と日本の地域の国際化の推進を目的として、昭和62年度に開始されました。平成26年度に28年目を迎え、招致国は4ヵ国から42ヵ国に、参加者も848人から4,476人へと、事業は大きく発展してきています。 また、JETプログラム開始以来、63ヶ国から6万人以上がJETプログラムに参加している。
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Aさんは、母校をALTについて調べてみました。ALTがたくさん働いている学校です。4人のALTを自分の体験などを通して分析しました。Aさんも言うとおり、日本の英語教師とALTの関係性はとてもおもしろいと思います。当然、ALTもそれぞれの教師認知を持っています。教育背景も違うし、文化も違います。日本の英語教師もそれぞれの教師認知を持って、実践しています。これは当然ぶつかるでしょう。うまくいく場合もあればいかない場合もあります。多少のストレスは感じるでしょうが、制度的しかたがありません。つまり、ALTは、公立の場合、一人で教えることはできません。ティームティーチングという形態が発生したわけです。

Aさんが、ALTをテーマとして選んだのはおもしろいことです。ALTは英語教師の資格をきちんと持っている人とそうではない人が混在しています。また、どこの国から来たかでかなり違います。私たちはつい「外人」として見る傾向がありますが、まったく違います。その点、4人の人の人間性やその他詳しく背景を知り、どういう考え方をもって教えているかを調査できたらたいへんおもしろい調査になるし、自分にとってもプラスになるでしょう。期待します。

さて、あと1回の発表で、この授業も終わりです。みなさん、それぞれのテーマを深く考えていただきたいと思います。けっこう一つ一つのテーマはたいへん重要な課題です。

2015年7月1日水曜日

第3回発表会

発表会は一人30分程度の時間ですが、30分では語り尽くせないくらいの内容がいつもあります。それぞれの一人ひとりの体験を通して見たことは他にはない事実だからでしょう。科学的と言われる事実は、検証可能で客観的と言われるものである必要がありますが、自分や教師や自分と教師の「こころ」のやりとりは他人にも自分にも「見えない」のです。話を聞いていると、少しそれが見えるときがあります。それが面白いのです。

6  Hさんの教育実習を終えて

Hさんは、母校で教育実習をしました。忙しかったけれども充実した3週間だったようです。ハンドアウトのさいごに、It is one thing to know, and another to teach.と書いてありました。これはだれもが感じることです。しかし、これは共通しているようでかなり個人的な体験で実は人によってかなり違います。

Hさんは、Hさんに影響を与えた先生がまだ同じ学校で教えているということがとてもよかったと思います。その先生と自分を重ねて考えることができたからです。「教師は生徒のロールモデルとなる」を教育実習で心がけたというのは、けっこうたいへんですが、生徒にとってはたいへんありがたいことです。身近な先輩、あるいは、年齢の近い教師は、親や教師がどんなに多くの経験や知見を持っていたとしても、同じことを言ったとしても、その受け止め方はかなり違います。

教師はロールモデルとしての役割は当然あります。特に英語学習であれば、そうでしょう。教師が英語をどう使い、どう学習し、また、研究しているかは、教師という職業の特徴です。私も教師をすることの魅力は、自分が学びを楽しむを実践できることだと思っています。Hさんの恩師が実践していることは、たぶん、私と同じでしょう。

逆に、Hさんも言っていたように、「反面教師」ともなります。教師の中で意図してやっている人はおそらくいないでしょうが、相性というか、誤解というか、考え方の違いなどで、そういうことが頻繁にあります。これは避けられないことですが、Hさんのように、それをバネにして成長する場合もあります。

Hさんは、教育実習を楽しんだようです。もちろんたいへんだったと思いますが、「教える」ということの面白さも分かったのではないかと思います。また、教師という職業を選択肢に入れてほしいと思いました。また、恩師の先生との関係性や恩師の先生の実践にも興味を持ちました。あちらこちらにいい先生がたくさんいます。私はそういう先生の実践に興味があり、可能なかぎり会って話してということをしてきましたが、時間にも限界があります。このようにHさんを通して、また一人すてきな先生がいるということを知りました。ありがたいですね。

7   Yさんのスウェーデンの英語教師

スウェーデンの外国語教育と日本の外国語教育は、歴史的にも地理的にもかなり異なりますが、日本にとっては、福祉を中心として昔から注目してきた国です。私も何度か訪れて、学校を見たりして思うことは、教師の自由度が高いという印象です。また、Yさんも説明していたとおり、人種なども多様で、言語も文化も異なる子どもがたくさんいます。ある面でむずかしいですが、個人を尊重し、勉強する子はきちんとするし、しない子はそれぞれの道を進むということのようです。

Yさんが紹介した教師は、Yさんが高校生のときに留学で出合った人です。スウェーデンの教員養成の詳細は知りませんが、それほど綿密なプログラムではないような印象を持っています。ようやく整備し出したという感じでしょうか?ただ、ヨーロッパ全体がそうであるように、実習期間をかなりとっています。また、英語であれば、英語力というものを当然重視します。留学などは当たり前であり、英語教師というよりも、外国語(言語)教師というほうがよいかもしれません。私の興味であるCLILは自然なかたちで実践されています。バイリンガルプログラムを多く、英語については第2言語と言ってもいのでしょう。

さて、Yさんの話のスウェーデンのH先生ですが、いい先生だと思います。熱心で自分を高めようとします。この点はたぶんどこの国でも共通して言える「よい教師」です。私が話を聞いていて面白いなと思ったのは、教師の「多忙感」です。世界中の教師の多くは忙しいと感じています。理由は、かなりの仕事を家に持ち帰るからです。授業をすると分かると思いますが、宿題を点検したり、採点したり、授業案を考えたり、個々の生徒の相談に乗ったりと、個人の裁量にまかせえられることが多々あります。

スウェーデンは、日本と比べるとはるかに男女の格差がなく、個人が尊重される国です。それでも、教育は女性が担う部分が多いように思います。教育で活躍している人がたくさんいます。私の知っているほとんどの英語の先生が女性です。それはさておき、日本はどうでしょうか?女性が多くなっていますが、中高では男性が多いですね。私の妻も英語教師でしたが、だいぶ以前に辞めました。多忙だからです。

日本は圧倒的に多忙です。真面目であればあるほど、家庭や生活を犠牲にしなくてはいけません。さらに、最近では、夏休み、冬休みもなく働いています。教師の仕事のメリットは、夏休みなどの生徒の休暇中に研修が自由にできて充電できることです(日本ではでした)。もちろん、さぼってばかりいる教師もいるでしょう。日本は、さぼっていい加減な人がいたことも事実で、批判もされました。それが今日のような管理社会になったと言えるでしょう。

Yさんの話を聞いて、教師はプロフェッショナルであるべきだと改めて強く思います。また、英語ならば英語の教師として仕事をすべきと思います。しかし、そうならない複雑な学校文化がすでにできていて、それはそう簡単には変わらないのです。Yさんは、日本の教師のデータをこれから集めるそうです。Yさんなりに分析してみてください。

8  Aさんの生徒に求められる良い英語教師とは?

Aさんは、良い英語教師とはどういう教師か?というテーマで課題に取り組んでいます。面白い点は、母校の学校の先生にアンケートを実施したことです。客観的には意味のない調査かもしれませんが、Aさんと母校の先生の関係性がとてもよく表われたデータで、私はとても面白いと思いました。母校の文化がよく出ているからです。

私が研究している言語教師認知という研究は、「言語教師が何を考え、何を知っていて、どのような信念を持っていて、どう教えて、どうそれを振り返っているのか?」ということを基盤にしています。多くの研究は、教師がどう成長し、どう変化していくのか、何が教師の教え方に影響を与えているのか?というようなことです。アンケート、インタビュー、日誌、語り、観察、などを分析して、たとえば、「文法を教えることについてどう考えているのか?」「コミュニケーション重視の指導についてどう認識し、どう教えているか?」などを探求しています。

しかし、このような調査は一般化することはむずかしく、一般化することにもあまり意味がない可能性があります。教師の内面の研究は、状況を考慮した観点で見るほうが、調査する側にも調査される側にも、納得できることが多いのではないかと考えます。その点から、Aさんの調査はとても面白いと思いました。これだけしっかりと答えてくれたのは、Aさんが調査したからです。ある特定の学校と、ある特定の調査者と、ある特定の教師集団の英語教育に対する考え方です。ここでは、調査者の実体験と視点を生かすことが大切です。その調査者の視点で、このアンケートを見て、考え、分析します。それはたぶん興味深い結果が出ると思います。

できれば、アンケート回答者の授業の実際を添えると調査に幅ができます。「なぜ英語教師を目指したか」はおもしろい質問です。それについての回答も詳しく聞けると、その先生の指導観、つまり、言語教師としての基本的な立場が理解できると思います。

良い英語教師というのは、ある一般化されたモデルはあるかもしれませんが、それがその状況に応じてどう当てはまるかは、かなり複雑でしょう。あまり単純化しないほうがよいレポートとなるのではないでしょうか?考えてみてください。

毎回、話を聞くたびに、興味深いですね。みなさん、ありがとう。次回も期待しましょう。