2013年7月14日日曜日

第5回発表を終えて

いよいよこの言語教師認知の授業も終わりに近づきました。そろそろみなさんも気づいたと思います。おもしろいと思う人も入ればつまらないと思う人もいる。人はそれぞれです。それでよいわけですが、その問題を少し「人」という視点で探索してみましょうというのが言語教師認知の研究の基本だと思って、私はやっています。

そういうわけで、この授業を一番楽しんでいるのは私でしょう。

しかし、ちょっと忙しくて、今日は多少雑な(いつも雑かもしれない)感想になることをお詫びします。

17 S2さんの受験英語について

S2さんは教師になる訳でもなく、教育の勉強をしている訳でもありません。経済の勉強をしています。なぜこの授業をとったのかはここでは省略しましょう。とりあえず、何か役に立ったことを祈りましょう。

今日の話は、S2さんが自分の高校時代を振り返って自分が教わった先生についての振り返りでした。私が印象に残ったのは、それぞれの先生がそれぞれ異なるアプローチをしていたということを指摘した点です。タイトルにあるとおり、高校の学習の主たる目的が、大学に入学するためとなっていることに、大きな問題があります。英語学習に関しては、おそらく多くの人がそうではないでしょうか。大学に行く目的が明確ではない人には、おそらく部活動であったり、アルバイトであったり、友人であったりと、高校時代はやはり人生の中で重要な時期です。

日本の高校教育は、いろいろと批判されたりもしますが、それほど悪いものではありません。私も高校教師だったので思いますが、先生も生徒も実に多くの活動を一所懸命やっています。受験勉強について、S2さんも強調していましたが、決して悪いものではありません。意味はあります。それでも、「英語が使えるようにならない」といつも批判されます。問題は確かにありますが、受験英語自体の内容がおかしいわけではないのです。

問題は、おそらく教師とクラスサイズです。クラスサイズは多少改善されつつありますが、教師の文化が変化を拒んでいます。簡単に言えば楽をするということです。別の言い方をすると手を抜くということになるかもしれません。でも、それだからと言って批判できない状況があります。教師は英語を教えること以外にたくさんのことをしなければいけないし、それがその教師の評価にもつながります。

S2さんの提示した問題はけっこう複雑で考えさせられます。

18 Hさんの韓国の英語指導

韓国はお隣の国で、ふつうの人はみなさん仲良くやりたいと思っているのに、政治や歴史の経緯でうまくいきません。韓国の人が日本を嫌いだという調査結果があるそうですが、どういう調査なのでしょうか。私はそうは思いません。「好きだ、嫌いだ」などという調査は意味がない。とにかく仲良くしましょうよ!と思います。

さて、韓国の英語教育はたしかにHさんが言う通りです。おそらく全体的に見ると日本よりも割合として英語を使って活躍している人は多いような気がします。英語だけではなく、中国語や日本語学習もそうです。外国語を学ぶのは教養ではなくて実践や将来につながるという意識が強いからでしょう。そのような政府の政策がそのまま反映される仕組みができています。しかし、もちろんその流れに乗れない人たちもたくさんいます。

欧米に行くと、アジア系の人はやはりお互いに親近感が自然と生まれます。そのときに、私が感じるのは、中国や韓国の人は個が強いということです。日本の人の中にもそういう人はたくさんいますが、相対的にそう感じます。韓国で英語の授業を見たときは、日本とあまり変わらない授業風景を見ました。恥ずかしがりやだし、英語もそれほどできるわけではありません。受験勉強は厳しいし、授業内容も文法知識などテストのための活動が多いようです。しかし、親の教育熱が高く、大学受験や英語が話せるようになるために相当の支援をします。Hさんが興味を持って調べたこととほぼ一緒です。

Hさんが述べたことで印象に残ったことは、韓国の友達へのインタビューの中で、日本の英語教育は「細かい」という指摘です。これだけではよく分かりませんが、鋭い指摘だと思いました。確かに、日本の教師は「細かい」ことにこだわるかもしれません。それも「細かい知識の違い」に注意しすぎる傾向があるかもしれません。

19 Yさんの英会話教室の活動

Yさんは自分がサポートしている英会話教室の活動とその先生に焦点を当てて発表してくれました。この授業でも早期英語教育に関心を持って活動している人が多く、興味深く聞きました。小さい子供に言語を教える場合には、1)相当の当該言語に対する知識と技能、2)教えることや学ぶことに対しての知識と技能、3)こどもに対する愛情、の3つが主に必要だと思います。日本の現在の小学校外国語活動では、1)と2)がないがしろにされています。日本の小学校の先生は優秀なので、3)などを中心に、総合的な教育に対する専門性から、1)と2)を補っています。

日本の英会話教室も、実は、1)や2)がないがしろにされる傾向は否めません。必ずしも資格を持って教師をしているとは限らないからです。ネイティブスピーカーということと、TESOLやCELTAなどの欧米基準の資格を持っている人はまだよいですが、そうではない人もたくさんいます。しかし、資格を持っていれば、それだけで上手に教えられるかというとやはり違うと思います。教えることは教える先生がどう工夫するかが大切です。それができる人は必ずよい先生になります。

Yさんが紹介してくれた人は、たぶん自分でいろいろな工夫をして子供に英語を教えているのでしょう。子供にとってはありがたいことです。それと、Yさん自身が子供に関わりたいのでしょうね。発表にもそのことがよく表れていました。将来はぜひ子供たちの教育に関わっていただきたいと思いました。

これから、幼児や小学生の英語教育もますます盛んになるでしょう。英語教育だけではなく、言語教育自体が大切ですので、様々な言語に対応できる多くの人を育成する人材が必要になるでしょう。ますます活躍してください。

20 O3さんの私塾の恩師

O3さんは、本当にいい先生に出会えてよかったと思います。私が、言語教師認知に関心を持ったのも、「教師は生徒に影響を与え、生徒は教師に影響を与える」という関係性にずつと興味を持っているからです。教師との出会いは、友達との出会いと同様に、人生にとって大きな影響を持ちます。「なぜ英語の先生になろうと思うのか」と教師志望の学生に尋ねると、ある数の人が教師(恩師)のことを話します。O3さんは、私塾の先生から大きな影響を受け、いまだにその関係性を維持しています。それがとても興味深い点でした。

O3さんの話を聞いて、ある程度納得しました。非常に濃密な関係性ができているということでした。しかし、それができているのも、O3さんの先生がいい先生だということだけではなく、O3さん自身がおそらく最初から持っていた知性や感性が先生と共振したのだと思います。とてもよい出会いだったということです。ぜひ大事にしていただきたいと思いました。

ビデオで授業の様子もちょっと拝見しました。子供たちの視線がすごかったですね。少人数という環境も大きな要因ですが、先生のこどもに対する愛情と教育に対する意欲がそうさせるのでしょう。ややもすると押し付けがましいことになる可能性がありますが、そのようなことは少しも感じさせない授業でした。

私は、授業を成立させる一つの要素は、この辺りにあると思っています。「先生が楽しく授業をする」ということが基本にあって、それをいつもできるようにする、ということが基本です。これは簡単なようでむずかしいことです。「楽しく授業をする」ためには、相当の努力をふだんからしていなければなりません。「自分が楽をして楽しんでいれば生徒も楽しいだろう」とは大きく違います。

「先生が楽しく授業をする」というのは、教師の「こころ」の有り様です。教師の「こころ」は現在の教員養成や教員研修ではあまり取り上げられないし、どうやったらそういう心持ちになれるのかはトレーニングのしようもないかもしれません。でも大切です。O3は恩師とともにそのことを学んだのかもしれません。恩師と培ったことを今度はO3がだれかに伝えられるようにしていただきたいと思いました。

乱筆乱文で申し訳ありませんが、いよいよ次回でさいごです。授業後はみなさんにお礼をしたいと思います。



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