2012年5月27日日曜日

言語教師の認知(cognition)のとらえ方 1

「言語教師」という言い方には馴染みがありません。英語でlanguage teacherと言えばよく使われる表現です。ドイツ語では、Sprachlehrer。日本は、教師はまず教師です。その他に、講師という言い方があります。教師と講師はどう違うでしょうか?また、教師と教員はどうちがうでしょうか?明確に回答できませんが、「言語教師」という言い方は結局馴染みがありません。

「認知」という言い方も微妙です。一般には、認知症がよく使われますから、「〜を認知する、できない」などと使われます。私自身で使い始めた「言語教師認知」という六字熟語は、ひょっとするともっと分かりやすくすべきかもしれません。

そのポイントは、

・言語教師の意味を考えることが、言語学習意識を変える
・言語教師の認知過程を研究することが、教師の成長につながる
・言語教師の認知過程を研究することから、学習者の学習を考える

というようなことだと考えます。言い換えると、

教師の認知を研究することで、言語学習ということを再考し、言語教師は何をする人かを考え、その対象となる学習者と学習を探求する

ということになります。

具体的には、

言語指導に携わる人を、特定の観点から調査することで、そこに何らかの発見や特徴が見えてくる。

たとえば、Grounded Theory (GT)という調査方法があります。その基本は次のようにまとめられます。


1 分析する対象を認め、十分に理解する
2 観察やインタビュー結果などを文字にして文章化する
3 データをできるだけ客観的に分類する
4 分類されたデータを読み、ラベルをつける
5 ラベル同士をまとめ、カテゴリー化する(オープンコーディング)
6 カテゴリーを関連づけ、説明を加える(アクチュアル・コーディング)
7 さらに説明を比較し、理論的にカテゴリーを関係づける
8 カテゴリーの関連の中で、対象を理論的にまとめる
8 理論化する

この手法は、具体的には様々ですが、ある現象を調査しながら理論化するプロセスという点は変わらないでしょう。そこで、言語教師認知という理論的枠組みを当てはめることで、調査に柱ができます。

これはあくまで一例に過ぎません。言語教師認知という研究の枠組みから、個人的に関心のあるテーマに取り組んでみましょう。







2012年5月19日土曜日

とりあえずリサーチ

言語教師認知の研究の基本は、「教師が何を考え、知り、信じ、どう教えているか」を理解することです。では、具体的に、「何を、どのようなことについて」を明確にする必要があります。

何かをする際には、人は意思決定をします。
授業をする際にもつねに意思決定をします。
「言語教師とは何か?」「よい教師とは?」「よい教え方とは?」「教師は何を教えるのか?」「教師のただ言語(英語)を教えればよいのか?」「外国の文化、国際理解、コミュニケーションなどなどは、どのように考えたらよいのか?」「英語やドイツ語を話せて、その文化を知っていれば、うまく教えられるのか?」「テストができればよい教え方なのか?」
などの疑問に正しい答えはありませんが、授業をするときにはある程度決めてから行動します。
その意思決定は、技能訓練だけでは対処できないのがふつうです。では、どうやって意思決定しているのでしょうか?

おそらく、それほど単純なことではないということは予想できますが、人によって相当に違いがあることも予想できます。つまり、「教える」ということは、複雑な教師と生徒の認知の関係性の中で成り立っている複雑な状況と考えられます。表面的な指導の流れや、教師と生徒の発話や、授業の目的が達成されたかどうかの成果を見ることだけでは、「学ぶ」ということの意味は適切に理解できないでしょう。

そこで、言語教師認知の研究は、いままでとは違うアプローチを取ります(アーカイブ2011年5月17日参照)。


言語教師認知は、社会的認知(social cognition)の考えと関係します。
 
  人は意図的に環境に影響を与える
  人は認識を返す
  社会的認知は自己とかかわる
  社会的刺激は認知の対象となることで変化する
  人の特性はそれ自体を考えるのになくてはならない観察不可能な属性である
  人は、モノが通常変化するよりも時間や環境とともに変わりやすい
  人についての認知の正確さはモノについての正確さよりも確認するのがむずかしい
  人は不可避的に複雑である
  社会的認知は自律的に社会的説明とかかわる

上記のことを考えて、まず、自分の興味と関心で、リサーチする対象を「調べ」てみましょう。

K1さんは、予備校、カタカナ、よい英語指導、の3つを考えてくれました。どれも面白いですが、範囲が広すぎます。そこで、予備校に焦点をしぼることにしたようです。

個人的には、私は実態をあまり知らないのでとても興味があります。最近では、現職の公立学校の教師が、予備校に研修に行ったりしています。予備校の教師は、ある意味でプロフェッショナル意識が強いかもしれません。期待したいですね。

方法としては次のような筋道を立てて考えてみるとよいでしょう。

1 予備校や塾指導の現状の把握、予備校講師の定義、予備校と中高教師の違いなどなどの背景的な知識のまとめ

2 調査の目的や仮説などの設定

3 調査方法(アンケート、インタビュー、観察など)の明確化

4 調査結果の分析とまとめ方

5 考察

K2さんは、国際理解にかかわる英語教師の考えに焦点をしぼるということでした。明確でよいと思います。また、このテーマも個人的にはとても関心があります。というのは、日本の英語教師の国際理解や交流や文化理解に関する考えは、微妙にずれているのかなという気がしています。


ACCU (ACCUAsia-Pacific Cultural Centre for UNESCO)の活動に興味を持つ教師にはどういう人がいるのか?どうして興味を持つのか?それが授業でどう反映されているのか?などなど、一つの活動にしぼって調査することで、何か分かりそうな気がします。

また、授業で話したICC (intercultural communicative competence)は、日本では、「異文化(間)コミュニケーション能力」と訳されます。この類いの本はたくさん出版されています。これは、言語教育でも、とても重要な概念です。しかし、これをどのように育成するかについての教師の意識はあまりよく分かっていないのではないかと思います。

K2さんは、実際に活動して実践しているので、その経験をベースにすることが大切だと思います。自分自身の考え、経験を、この調査を通じて,再度問い直して考えて、ことばとしてまとめてみると、今後の方向性が明確になると考えます。

方法としてはK1さんとほぼ同じですが、次のように筋道を立てて考えてみるとよいでしょう。

1 国際理解、文化理解、ICCなどなどの背景的な知識のまとめ
      それと自身の経験や知識にもとづく交流に対する考え方

2 調査の目的や仮説などの設定

3 調査方法(アンケート、インタビュー、観察など)の明確化

4 調査結果の分析とまとめ方

5 考察

体調を崩して休んでいたTさんも、上記のことを参考に、自分の調査を進めてください。

では。




2012年5月13日日曜日

言語教師認知の研究

今回は、私がほとんど話してばかりですみません。次回はそのようなことがないようにしたいと思います。

さて、

言語教師認知の調査研究は、素朴な発想から生まれます。しかし、単に教師の考えを調べて分析することにとどまらないことが大切です。教師は、様々な意味で査察(inspection)や評価(appraisal)の対象とされる傾向があるからです。実際、ここ数年の間に、教師は校長に評価されたり、自己評価することを求められています。説明責任(accountability)の観点から、多くの報告文書の作成、社会や保護者からの要望に応える必要性、学校内の情報の管理など、授業指導にかかわる以外の多くの仕事が課せられ、なおかつ、授業だけではなく、部活動、生徒指導、多様化する生徒や保護者との対応を、次から次へと要求され、多くの教師が、勤務時間外にも多くの仕事をしています。もちろん、さぼっている教師もいるでしょうが、大半の教師は教育に熱心です。言語教師認知の研究は、それをサポートする研究であることを追求しています。ただ単に教育研究のための研究ではなく、実践的な研究である必要があると考えています。

『言語教師認知の研究』の第1章と第2章の趣旨はそういうことです。詳しくは、本を読んでください。授業では、その点を踏まえて二つのことを伝えようとしました。

1 言語教師認知研究は、教師の内面を探求することから教師の成長をサポートする。
2 言語教師認知研究は、教師(あるいは教師になろうとする人)の自己の哲学的探求に資する。

英語教育では、英語指導技術の向上を求める方向性が主流です。つまり、指導法の改善、明日の授業に使える指導教材や活動のアイディアなど、表層的な面に関心が集まってきました。「文法訳読はよくない」「受験指導のために問題を解いているだけではよくない」「ゲームして歌歌って楽しくしているだけでは英語力はつかない」などなど、何十年も同じような議論が続いています。そのような議論の中で多くの教師は何を考え、どう指導しているのでしょうか?また、教師だけではなく、生徒はどう考えているのでしょうか?教育は上から押し付けるだけでは決してよい結果は生まれません。基本は、個人の 成長です。個人の成長をどうサポートするのかが、課題です。

一人ひとりがすばらしい才能があると考えて、それを伸ばすことです。言語はその意味でとても大切なツールです。考える、理解する、発表する、など、すべてに言語はかかわります。国語と英語を異なるものと考えるよりも、結局は、自己の成長のツールの重要な一つと考え、母語と外国語などと考える発想を変える必要があるかもしれません。

さまざまな意味で教師は、それらのことに強い影響力を持ちます。言語教師が、言語にかかわる知識、技能、信念、思い込み、態度、意欲などなどの認知的な面について探求することは、言語教師自身の成長を支え、プロフェッショナルとして誇りを育てるのです。

授業では、言語教師認知の探求の一端を紹介しましたが、リサーチの方法は様々です。最初に述べた通り、素朴な質的調査をしてみることが、最初の一歩です。それは、自分が知りたいということに一歩踏み込んでみることです。話を聞きに行くことでもよいです。観察することでもよいです。アンケート調査もよいです。実験でもよいかもしれません。自分自身の日記でもよいかもしれません。探求してみることです。それを授業に持ちより、みなさんで話し合うことで方向性が見えてきます。

次回までに、自分が探求したいことを考えておいてください。

乱筆乱文ごめんなさい。