2013年4月26日金曜日

自分はことばをどう学んだか

言語教師認知とは?(本ブログのはじめの再掲)


まず、次の図を見てください。Simon Borg (2006)をもとに、日本の英語教師の認知の構造を表したものです。



言語教師認知の研究

ここで考える言語教師認知の研究のポイントは、

 言語教師の課題解決につながる教師の認知プロセスの探求
 英語教育研究の伝統と歴史の中の言語教師認知
 教員研修の重要なカギとなる言語教師認知

近年、言語教師認知と授業実践との関連性の研究が徐々に注目され、この十数年間徐々に教師の心的プロセスへの注目度が高まり、その関心が浸透するようになってきました。言語教師として必要な力量は何か、言語教師として指導に携わるための知識と技能は何か、それを基盤とした教授力や学習指導力はどのように養成し、育成していくのか、また、その言語教師としての力量と学校教育における教育活動全般にかかわる力量との関連などが取りざたされてきました。しかし、それだけでは言語教師の今日的課題は解決しにくいことが認識されてきたのです。

このような経緯から、

言語教師認知研究とは「言語教師が目標指導言語や授業指導に関してどのような認知のプロセスを持って成長しているか」という探求をめざす。言い換えれば、「言語教師がどう考え、何を知り、何を信じているのか、そして何をしているのか」という認知のプロセスを言語教師認知ということばで表します。

多くの言語教師にとって関心の的は、指導言語の知識と技能に関係することであり、かつ、実際にどう指導するかに関連する知識と技能です。どちらに重点を置くかは状況と教師自身の考え方によります。言語教師を取り巻く研修もこれらのどれかに焦点を当て実施されています。文学、言語学、異文化、4技能の指導、発音、導入の工夫など、知識と技能に関する研修が教師の興味を引くでしょう。言語学や文学や言語教育を専門とする言語教育研修の指導者は、自身の研究の観点から様々な知識と技能を提供してきました。また、学校経営、教育課程、生徒指導などの教育にとって重要な研修内容は、校長経験者、指導主事などの経験者が担当し、行政の方針等に沿って、自身の経験と知識をもとに指導してきました。それに対して、教育学の知見を基盤とした教師の研究は、教師を研究の対象として科学的に分析することに終始する傾向がありました。これらの研究や実践が言語教師のために系統的に提供されてきたでしょうか。

英語教育研究はその長い伝統と歴史を形成してきました。「英学」に始まり、「英文学」と「英語学」という二つの学問的柱を中心として英語教育は研究実践されてきました。その伝統に加えて、応用言語学、第2言語研究などを背景とした理論と実践を導入することにより、カリキュラム、指導法、教材などに注目するようになっています。多くは、日本の学校現場の教師文化や実態とは、やや異なる視点からの内容であり、必ずしも現場に浸透するまでには至っていません。1980年代後半に導入された学習指導要領の「オーラルコミュニケーション」という目標設定とALT(Assistant Language Teacher)とのティームティーチングは、ある意味で英語教育を大きく変える出来事でしたが、期待ほどの効果はあがっていない可能性があります。

このような状況に対して、言語教師認知の研究はある意味で重要なカギとなる可能性があります。日本の小学校や中学校を中心にして行われてきた授業研究(lesson study)の伝統と、リフレクティブ・ティーチング(reflective teaching)(授業内容などを、つねに振り返り、考えることにより、授業を改善し、教師としての資質を向上しようとする研修)を背景とした協同のアクション・リサーチ(collaborative action research)(授業内容を、授業実践しながら、同僚とともに、改善しようとする研究)が、言語教師認知研究に支えられるからです。

ー 笹島・ボーグ(2008)『言語教師認知の研究』より

さて、本題です。「自分はことばをどう学んだか?」という問いです。

授業では、グループで関連の話をしました。話題は様々で興味深いと思ってくれればよいと思います。答えがあるわけではありません。他の人と話し合うことで、何が共通の意識で、何が違うか、に気づくか?また、どうしてそう考えるのか?ということを突き詰めて考えるということが、「省察(reflection)」につながります。

みなさんの議論の中で、私が特に印象に残ったのは、「受験」ということです。言い換えれば、「高校や大学の入学試験を目的とした英語学習」ということでしょう。

英語が話せないのは受験教育のせいだ。
文法訳読は受験には欠かせない。
本当は受験指導などはしたくないけど。。。

このような問題は、「学習指導要領」とはかけ離れています。みなさん気づいているのに、だれも解決できません。

実は、高校入試も大学入試も変わっています。学校の英語教育も少しずつですが変わっています。教師の意識はどうでしょうか?

次の話題は、「ことば(主に英語)はどう教えられているか?」です。

次のサイトにアクセスして指導事例を参照して、この課題について意見を言えるようにしておいてください。

英語ネット

また、自分の興味あるテーマについてのリサーチを少しずつ始めてください。



2013年4月19日金曜日

1. 外国語(英語)を学ぶ/教えるとは?

言語教師認知論という研究に関心を持っていただいてうれしいですね。たくさんの人が来てくれて、きょうは大満足です。それとともに授業もすこし工夫しなくてはいけません。

大事なことは、言語教師認知の研究には確かに枠組みがありますが、この授業はそれに集中するのではなく、どちらかと言えば「学校現場」に焦点を当てて、「英語を教える・学ぶ」を考えましょう。

Language Teacher Cognitionとは

「言語教師が、言語を教える/学ぶにあたって、何を考え、どのような知識があり、どのようなビリーフ(信念)をもっているのか、ということを探求することにより、言語教育を見直し、言語教師自身の成長に寄与しようと意図する」

ということです。

詳しく知りたい人は、『言語教師認知の研究』(笹島・ボーグ, 2009)を購入して読んでください。また、英語版は簡単な説明は次の資料を読んでください。

Introducing Language Teacher Cognition

また、私が代表をしている研究会のサイトです。

JACET言語教師認知研究会

いっしょに暫し学びましょう。

さて、「外国語(英語)を学ぶ/教えるとは?」ということですが、。。。

英語を学ぶ意義は、学習者が英語を学習するにあたり、もっとも大切なことです。しかし、それをどう受け止めているか、あるいは、どう実践しているかは、人によって相当に違います。互いに異なることをまず理解することが大切です。「英語はコミュニケーションのためだ」という意義があったとすると、どのようなコミュニケーションを想定しているのか?

中高の英語教育では、「教科」としての「外国語(英語)」を学ぶという思い込み(assumptions)は、どの程度の共通理解があるのか?「言語(ことば)」として英語を学ぼうということはどういうことか?

これも人によってかなり違います。

不正確に英語を使ってもよいから、まずコミュニケーションだ!
まず基本が大切。発音を正確にしなければコミュニケーションはできない。
文法が分からなければ英語は読めない、書けない。
語彙学習が一番。
私は音読で英語が分かるようになった。だから音読を薦めたい。
学習指導要領にあるとおり、「コミュニケーション能力の基礎を養う」ので、私は、文法、語彙、訳をきちんと教える。それが子供たちの将来に必ず役に立つ。
などなど。

授業では、その他にも多くの話題が出ました。まとめると、

英語を学ぶ目標が受験になっている。もっと大きな目標のもとに英語や外国語は学ぶほうがよい。日本の英語教育の目標は限定的だ。日本の学校教育は画一的で、受験という方向性ができてしまうと、それに従って進んでしまい、結局、「役に立たない英語学習」となってしまう可能性が高い。世界は多言語多文化社会になっているので、もっとそういうことを考えたほうがよい。ヨーロッパは個人主義だ。もっと個人で考えて、行動するほうがよいのではないか?外国語は、「その場そのとき (hear and now)」が最も効果があると思う。もっと英語(あるいは外国語)が話されている状況に入って英語あるいは外国語)を使う機会に接することが大切。

といったものでした。非常に貴重な意見でもどれも正しいし、的を射ていると思います。しかし、大切な点は、これも、人によって受け止め方が異なるということです。

教師認知は、そのような複雑な教師の考え方を理解しようとすることを目的としています。そのことを理解して、英語の教え方や学び方を考えるということです。

コミュニケーションを重視した言語教育(communicative language teaching)(CLT)は主流です。しかし、実はCLTは形がある訳ではありません。Michael Longという人が1988年い提案したFocus on Form という考えは、コミュニケーション活動の中で文法を意識するというものです。ただコミュニケーションをすればよいというのではなく、そこで文法を意識して学ぶということでしょう。

鈴木利彦先生の話題が出ました。鈴木先生は、語用論(pragmatics)を研究している人です。語用論は実際の言語の使用を研究していますから、ある意味で、Focus on Formと似通った活動になります。

まとまりませんが、みなさんとの議論からそんなことを考えました。

次は、「2.自分はことばをどう学んだかについて考える」がテーマです。楽しみにしています。




2013年4月16日火曜日

2013 言語教師認知の授業の概要

2013年度さらに言語教師認知の研究は盛んになっています。
今年からは、英語という言語の教師、つまり、英語教師に焦点を当てましょう。

目標は、二つです。

自分を知る・自己を見つめる
英語はどう教えるか?英語教師はどう教えているのか?

授業シラバスは概ね次のように進みますが、みなさんの興味の向く方向に行きましょう。


1. 外国語(英語)を学ぶ/教えるとは?
2.自分はことばをどう学んだかについて考える
3.ことば(主に英語)はどう教えられているか?(1)
4.ことば(主に英語)はどう教えられているか?(2)
5.ことばはどう学ばれているか?
6.外国語(英語)はどう学ばれているか?
7.ことばの教え方を調べる(1)国語と英語はどう違うか?
8.ことばの教え方を調べる(2)英語とヨーロッパ言語とはどう違うか?
9.ことばの教え方を調べる(3)英語とアジア言語とはどう違うか?
10.ことばの教え方を調べる(3)国語と日本語はどう違うか?
11.ことば(主に英語)の教え方について話しあう(1)
12.ことば(主に英語)の教え方について話しあう(2)
13.言語教師認知を考える(1)
14.言語教師認知を考える(2)
15.まとめ

活動 グループ討論
   リサーチ
   発表(口頭とレポート)


英語教師の考え方/教え方の探求!